東京高等裁判所 昭和47年(う)947号 判決
被告人 平傳
〔抄 録〕
職権をもって調査すると、原判決は罪となるべき事実の第一として、被告人は反覆継続して自動車の運転を行なっていたものであるが、昭和四六年一〇月二七日午後九時五五分頃、普通乗用自動車を運転して栃木県塩谷郡藤原町大字大原地内の国道一二一号線を、高徳方面から鬼怒川温泉方面に向い、時速約四〇キロメートルで進行中、運転開始前に飲んだ酒の酔いがまわって注意力が散漫となり、前方注視が困難な状態になったのを自覚したのであるから、ただちに運転を中止して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り運転を継続した過失により、同所一、三二四番地先道路上に至って、進路上に一時停止していた阿久津常男(当時二三年)運転の普通乗用自動車を約一六・三メートル前方に発見して急停車の措置をとったが間に合わず、同車後部に自車前部を衝突させて、同車を左斜め前方に押し出し、折柄道路左側歩道上に柳原美幸(当時三年)を抱いて佇立していた柳原充子(当時二九年)に衝突させ、よって右阿久津に全治約二週間を要する頸部および右肘部挫傷、右柳原充子に加療約一〇日間を要する頸部・左側胸部および右膝関節部挫傷、右柳原美幸に加療約一週間を要する腰部および臀部挫傷の各傷害を負わせた事実、また同第二として、被告人が酒気を帯び、アルコールの影響により正常な運転ができない虞れのある状態で、前記日時場所において前記自動車を運転した事実をそれぞれ認定した上、右業務上過失傷害および酒酔運転の各罪を、同第三(無免許運転)、同第四の一、二(救護・報告義務違反)の各道路交通法違反罪と刑法第四五条前段の併合罪(ただし業務上過失傷害については同法第五四条第一項前段、第一〇条を適用)として、同法第四七条第一〇条を適用処断していることは、判文上明らかである。しかし
一、原判示第一事実は、被告人が本件車両の運転開始前に飲んだ酒の酔いのため前方注視が困難な状態になったので、運転を中止すべき業務上の注意があるのに、これを怠り運転を継続したことをもって、過失の内容となすものであるから、原判示第二の酒酔運転は、同第一の各業務上過失傷害と一所為数法の関係にあるものというべきである。しからば両者を刑法第四五条前段の併合罪として処断した原判決は、法令の適用を誤ったものであり、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。
二、次に本件起訴状によれば、公訴事実中に酒酔運転の訴因の記載がなく、また記録上原審が検察官に対し、右訴因の追加を促し、もしくはこれを命ずる措置に出たこと、あるいは酒酔運転の罪につき追起訴がなされたことを認めうる資料はない。もっとも起訴状中公訴事実第一として、冒頭に摘示した原判示第一とほとんど同一内容の業務上過失傷害の訴因だけが記載されているのに、これに対する罪名および罪条として、「業務上過失傷害刑法第二一一条前段、道路交通法違反同法第六五条、第一一七条の二第一号」の記載があること、また原審第一、第二回公判調書によれば、検察官は冒頭陳述および論告に際し、酒酔運転についても言及していることに徴すれば、原審検察官は、起訴状中公訴事実第一として、前記のような内容を記載することにより、業務上過失傷害および酒酔運転の両罪が、一所為数法の関係にあるものとして合わせて起訴されているものと考え、後者の訴因の記載が脱漏していることに気付かず、原審もまたこれを看過したのではないかと推測されるのである。したがって原審としては、すべからく酒酔運転については、起訴状中に罪名・罰条の記載があるだけで、訴因の記載がないことに思いをいたすとともに、本件の業務上過失傷害と酒酔運転とは一所為数法であるという見解に基づいて、検察官に釈明して酒酔運転の訴因を追加させる(かりに両者を併合罪とする見解をとれば、追起訴を促す)べきであったのである。しかるにこのような措置をとることなく、本件において訴因が明示されていない酒酔運転を有罪とした原審は、審判の請求を受けない事件について判決をした違法を犯したものといわなければならない。
(石田 菅間 柳原)